人生100年時代、相続対策では備えられない(2)
認知症になってしまうとどうなる?
私たちは、認知症にならないよう予防したり、認知症の方との接し方を学んだり、認知症自体の対処方法に目を向けがちです。しかし、認知症発症後のほうにも目を向けておく必要があります。
認知症になってしまうと、介護の問題だけではなく、契約などをする際、法律上必要とされる判断能力がない状態になります。その結果、様々な行為・契約に制限がかかり、財産が動かせなくなるのです。もし認知症になってしまったら…できなくなる法律行為のには、以下のようなものがあります。
[認知症になったらできなくなること]
✖ 施設入所のための費用を本人の預貯金から引出し、振込み
✖ 介護施設へ入所後、その本人の自宅の売却
✖ 賃貸物件の管理、修繕、建替え
✖ 自社株式の譲渡や贈与
✖ 経営者の場合、会社経営の意思決定が必要な契約、取引、承認
認知症になってしまったら、介護費用に充てるために自宅を誰かに貸したり、ご両親や配偶者の名義の預貯金を本人に代わって引き出したりすることができないのです。そのような状態になってしまったら、あなたも本人も困ってしまいますよね。
このような認知症になった後のことを元気なうちから親にするのは気が引ける…という方は非常に多いでしょう。ある保険会社の認知症に関する調査結果では、7割の人は認知症に関することを親と会話していないそうです。しかし、相手が認知症かも?と思ってからではもっと話をしにくくなることは想像にたやすいですよね。元気なときだからこそ、「まだまだ先の話だけどさ」と明るく話をすることが大切かと思います。
相続対策では遅い!
「相続」に備える、というと多くの人が、
・財産の分け方(兄弟で争わないように、という争族対策)
・税金をいかに下げるか(相続税対策)
に関する話し合いを本人が亡くなる少し前にするイメージを持っているのではないでしょうか。
しかし、亡くなる直前のこれら相続対策では、本人の希望が反映されにくくなります。先述したように、本人自身の意思決定が難しいことに加え、家族や関係者間での意見の相違や、感情のもつれが影響し、本人の意思や希望を全く無視した話し合いになる可能性が高いのです。
「親の資産についてどう分けるか」について親抜きで子どもたちだけで話し合おうとすると、それこそ争続に発展してしまいます。まだまだ元気だから大丈夫、と先延ばしにすると、取り得る選択肢が少なくなってしまうのです。
亡くなることに備える相続対策、から、認知症に備える認知症対策をとることが必要です。
万能な認知症対策はないが…
「先祖代々受け継いだ土地を自分の家系で守りたい」
「事業を継がない長女には株式は承継させず、でも兄弟でバランスをとりたい」
「万が一の時は信頼している後継者に議決権の行使を任せたい」
「万が一の時は長男に物件の管理と最後は売却の手続きをしてほしい」
「内縁の妻とお世話になった施設に遺贈をしたい」
「親不孝な長男には相続させたくない」
これまで出会ったお客さまからの言葉です。100人いれば100通りの考えや希望があり、状況も異なります。残念ながら、「これをやっておけば大丈夫」といった万能な対策はありません。対策として、「遺言」「成年後見制度」「生命保険」「生前贈与」「民事信託」など様々ありますので、この中からお客さまにあったものを選択したり、組み合わせるということになります。
「将来こうありたい」あるいは「将来こうなると絶対に後悔する」という未来があるなら、それぞれの対策でできること、できないことを知ることが第一歩です。まだ具体的に将来を描けない方は、
それを見つけるための戦略会議を一緒にします。
「遺言」「成年後見制度」「生命保険」「生前贈与」「民事信託」それぞれの内容については、また次の機会に解説したいと思います。